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2015-06-15ウェーバー「三重奏曲」Op.63その3 第3楽章 [音楽]




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ウェーバー(1786-26)「三重奏曲」Op.63(1819) 第3楽章、これは取上げなければならない楽章です。6/8拍子 ’Schafers Klage’「羊飼いの嘆きの歌」の副題を持ちます。

この三重奏曲についてほとんど有効な資料も見い出せず、前回、前々回と同様、先の英語資料を引用させていただこうと思います。「この第3楽章は他の楽章と違い日付を持たない。これはウェーバーのもっと早い時期の作品、多分プラハ時代の作品であることを示唆するものであろう。」(Hyperion[Trio for flute,cello and piano in Gminor,J259 Op.63]byJ.Warrack2005) 4つの楽章の中で作曲時が唯一不明である、これだけでもこの楽章の特殊さが分かります。
「羊飼いの嘆きの歌」はゲーテによる1802年の作品。この「羊飼いの嘆きの歌」は、有名なところではシューベルトが1814年(17歳時)に曲を付けています(Op.3-1,D.121)。

先の資料、この「羊飼いの嘆きの歌」について、一層目を引く記述があります。「 「羊飼いの嘆きの歌」はヴィルヘルム・エーラーズ(Wilhelm Ehlers/1774-1845?)というヴァイマールの歌手兼俳優の手によって、ギターソング集(in a collection of guitar songs)として1804年に出版された。」(同上)

ゲーテ作の早くも2年後、最も有名なシューベルト版の10年もの前にエーラーズ版というものが世に出ていたことになります。 資料はこう続けます。「ウェーバーは多少の改良を加えた旋律をこのエーラーズ版に基づいて作曲した。」(upon which Weber based his subtly improved melody)これは実に興味深い記述です。このエーラーズ版「羊飼いの嘆きの歌」(残念ながら楽譜は見れておりません)が、ウェーバーの「羊飼いの嘆きの歌」の元ネタであったというのです。またその曲集はギター伴奏であったという事実、資料は更にこう続けます。「エーラーズ版はまたウェーバーの’つま弾くような’ピアノ伴奏部に明らかに影響を与えている。ウェーバー自身も熟達したギタリストだった。」(同上)

ウェーバー自身がギターの名手だったことも看過できない点ではありますが、先を急げば、下の譜例、第3楽章冒頭部、このバスを完全にVc.のPizz.に任せ切った寡黙で風変わりなピアノ伴奏書法は、エーラーズ版というギター伴奏版に由来していたというのです。この冒頭部はこの事実を突き付けて初めて納得のできる音楽現象といえます。珍しくも音楽現象の裏付けがとれた瞬間です。

Weber_Trio_Op63_mov.3.jpgウェーバー「三重奏曲」OP.63第3楽章開始部 

そしてシューベルトもエーラーズの版を知っていた可能性が充分にあります。これはシューベルト初期歌曲においても有効な研究材料でしょう。

またウェーバー(1786-1826)からシューベルト(1797-1828)〜10年隔てて生まれ奇しくも同時期に没する〜という流れ、その連続性はモーツァルト・ベートーヴェンという大家との連続性の中に19世紀初頭の音楽史を豊かに補填する好材料といえます。言換えれば、モーツァルト・ベートーヴェンからシューベルトの間にウェーバーが在るということを我々はもう少し意識してもよい、いや意識するべきなのでしょう。この系譜は同時代人ロッシーニをはじめとするイタリア音楽との比較において、より一層光彩を放つことは言うまでもありません。

さてシューベルトの「羊飼いの嘆きの歌」ですが、創意と工夫に満ちた高度な転調による完璧な構造をもっています。それは私などには、どうしても17歳の作品とは思えないほどです。しかしそれは音楽が等速で進むのではなく明らかにシューベルトという才能によって加速する分野であったことの証(あかし)であって、それは誰しもが認めなければならない事実であると同時に、歴史における連続性と発展の速度という問題は、また別問題であるということの証明でもあります。このような加速においてこそ、日頃いたるところで濫用している天才という言葉を使うべきなのでしょう。

SchubertKlagelied.jpg 

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平野達也作品の試聴はこちら↓

平野達也作曲:吹奏楽のための「過ぎ行く季節に寄せて」(未出版) 


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